『JUDGE EYES:死神の遺言』に期待していなかった男のプレイ感想
曇りの日なんかに街を歩いていると、急に足が進まなくなることがあります。
いやね、歩くのに疲れたとかじゃないんですよ。
ただ……、不意に思い出したくもないことを思い出しては、「あっ待って、なんか心が休憩ほしがってるわぁ!」って立ち止まっちゃうことがあるんです。
そういうときは、うつむいて、一回まぶたを閉じて、ぽっと溜め息を吐く。
別にそれで何か解決するわけではないんですけど、そうせずにはいられない瞬間があります。
こういう記憶の片隅に追いやっていた過去のフラッシュバック――、経験ある方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
おそらく、そういう記憶やら心の淀みを「トラウマ」と呼ぶと思います。
もしかすると、そのトラウマに人生を左右されてしまった人もいるかもしれません。
本作『JUDGE EYES:死神の遺言』の主人公・八神隆之もまた、大きなトラウマを内包する人間の一人です。
そうです!! CVがキムタク!!!
ゲストの精巧な3Dモデルを作ることで有名な龍が如くスタジオなだけあって、かな~~りそっくりです。まごうことなきキムタクに仕上がってます。
とはいえ、内面までキムタクなのかというと、そうではありません。
先ほど書いたように、八神はトラウマに苦しんでいます。そして、ストーリーを進めていくにつれて自分の過去と向き合っていくことになります。
では、その肝心な物語はどうなんでしょうか。
ここでは体験版でも配信された導入部分を紹介しましょう!
プロローグ(体験版配信部分)
かつて、八神は若いながらも将来を嘱望される弁護士であった。
ある日、そんな八神の元に初めての刑事弁護の依頼――依頼人はある殺人事件の容疑者・大久保新平――が舞い込む。
日本の裁判における有罪判定は99%と言われており、世間も大久保の有罪を疑わなかった。しかし、八神はその裁判で大久保の無罪を勝ち取る。
その後、八神の勤める源田法律事務所には弁護依頼が殺到するようになる。
弁護士として順風満帆な八神に、先輩弁護士・新谷正道が嫉妬交じりの憎まれ口を叩く日々が日常化していたある日、いつものように八神宛てに一件の電話が入る。
電話を八神に取り次いだ同僚・城崎さおりは「八神先生に弁護の依頼」だと言うが、普段は冷静な彼女が取り乱すほど、その電話の内容は他の案件とは一線を画していた。
その新たな事件の依頼人は「大久保新平」。
大久保は八神の弁護によって殺人の容疑が晴らされ釈放されたばかりだった。しかし、彼は自由の身になった途端、同棲中の恋人・絵美を刺し殺し、火を放ったというのだ。
――その後、3年の月日が流れる。
八神は神室町の雑踏の片隅で小さな探偵事務所を経営していた。
そこに過去の栄光はなく、助手・海藤正治と共に借金の取り立てやペット探しなど何でも屋まがいの依頼を受けては、その日暮らしの生活を送っていた。
この時点の感想
この体験版が配信された当時、龍が如くシリーズが大好きだった僕はすぐにプレイしました。
正直、これまで龍が如くシリーズ以外のシリーズ(クロヒョウなど)には興味がありませんでした。
しかし!! 龍が如くが完結してロス状態になっていましたし、なによりキムタク×神室町というインパクトが気になったのがプレイ動機でした。
ようするに、プレイ前は「そもそも他シリーズに興味なんてないし、本作はキムタク起用が売りのキャラゲーに過ぎない」と思っていました。
そして、体験版をプレイした後も、その感想は大して変わりませんでした。
だって、それくらい斜に構えていた人間ですよ?
無罪になった男が再び別件の殺人容疑で逮捕された!!
なんて言われても、どうせヤクザの抗争とか、巨大な闇にまつわる利権争いに巻き込まれたとか、そんな展開だろうなって察しがつくわけです。
とは言っても、龍が如くシリーズが好きな自分としては、こういう龍が如くシリーズあるあるの展開が嫌いなわけではありません。むしろ安心するレベル。
ただ、体験版の時点で看過できない要素があったんです。
新要素の「尾行」が圧倒的につまらない!!
新システムがストレス源
このスタジオの作るゲームはスピード感あるバトルだったり、ダッシュのスタミナ切れがなかったり、いつもユーザーが求める爽快感への配慮が素晴らしいと思っているのですが、この尾行システムに関してはそれが感じられなかったのです。
尾行の特質上、対象を走って追いかけられないのはわかるんです。
でも、ただでさえ走れないというストレスがあるのに、尾行対象が人間ぽくない挙動を繰り返したり、特定ポイントに立たないと尾行を完了したことにならなかったりする点は不満でしかありませんでした。
それらがなくても、基本的に勘付かれないよう後ろをてくてく歩くだけで退屈です。
本作では変装やカメラ、ドローン操作なんかもシステムとして確立してるのに、尾行で使わないのも勿体ないと思うところでした。
まとめると、体験版プレイ時の感想は、「ストーリーは龍が如くシリーズファンの自分でも楽しめそうだけど、ゲームシステムにストレスが溜まりそう」という、中の下くらいの評価でした。
体験版では当然ストーリーの全容なんてわからないわけですから、ゲームシステムに評価基準が集約しちゃったわけです(声優の演技などは僕は気にしないほうです)。
体験版プレイ後と製品版プレイ後の感想の違い
そんなわけで、発売前はさほど期待していませんでした。
しかしながら、この身勝手な評価は実際にプレイしてみたらくるっと覆りました。
『JUDGE EYES:死神の遺言』、面白いです。
新システムの総評
とはいえ、新システムについては製品版でも全般的につまらなかったです。
本作で導入された新システムについての感想は以下の通りです。
・尾行
追跡対象に気付かれないように後をつけるアクション。
→先述した通り。身バレしている相手にも普段の服装で尾行するなど、演出的にも緊張感に欠ける場面がありキツかった。
・サーチモード
人混みの中からターゲットを見つけ出したり、事件現場で手がかりを見つけるためのアクション。
→時間制限があるパートもあったが、謎解き要素はなく、片っ端からサーチするだけの作業に感じる。
・チェイス
走って逃げる相手を追いかける。障害物競走のようなアクション。
→スタイリッシュ感や爽快感はあるが、コマンド入力が一定間隔かつ単調で飽きる。Lスティックだけ複数回入力しなければならない謎。
・聞き込み
会話の中で発言内容を選択して、情報を収集する。
→ノベルゲームみたく複数の選択肢が用意されていて任意に選べるが、結局すべて選べるので、これも作業感が抜けない。選択の順番次第でポイントがもらえるが、ごくわずかなポイントなのでモチベーションにならない。
・証拠提示
会話の中で相手が言い逃れできないように、証拠を突きつける。
→これも複数ある証拠の中から適切な証拠を選ぶものだが、簡単すぎるし、失敗しても成功するまで選び直せる。
・鍵開け
潜入ミッションの際、ピッキングやサタムーン回し、暗証コード解除、鍵束など様々な技術を使う。
→鍵束というのが、今まで集めた鍵の中から適切な鍵を選んで開錠するというものなのだが、自宅の鍵もいちいち選ばなきゃいけないのでストレスがたまる。
……わりとボロカスに書いてしまいましたが、「面白い」と言ったのは、それでもストーリーがかなり良かったからなんです!!
ストーリー
その日暮らしが続いており、次の仕事を渇望する八神は以前まで勤めていた源田法律事務所を訪れる。
話の成り行きで八神は先輩弁護士・新谷が担当する刑事裁判の証拠集めを手伝うことになる。
このとき神室町では関西の暴力団組織・共礼会の極道3人が立て続けに両目を抉られて殺されるという猟奇的連続殺人事件が起こっていた。
新谷が八神に証拠集めを依頼したのは、この事件についてだった。
容疑者は東城会の末端組織である松金組のナンバー2・羽村京平。警察は東西間における暴力団の抗争だと考えているようだが、羽村は無実を訴える。
八神は調査を進めていく内に羽村の無罪を裏付ける証拠を揃えていく。しかし、それらは羽村が実行犯ではないことを示すと同時に、彼が一連の殺人事件に密接に関わっていることもまた示していた。
犯人でない以上、羽村は裁判では無罪になる。しかし、羽村に利用された形の八神は「コケにされたまま黙っていられない」と一連の事件の全容を明らかにしようと躍起になる。
誰に依頼されるでもなく独自に調査を続行する中で、八神はかつて自分が無罪を勝ち取った大久保の一件も深く関与していることを知り――
ファンに愛されるストーリーの型
龍が如くシリーズのシナリオといえば、「小さな事件に思われたはずが、実は大きな闇に繋がっていた」というパターンだと思います。
僕はこのパターンが好きです。プレイしていてこのパターンに入ると、安心します。
例えば、吉本新喜劇における「お決まり」のネタ。あれって、次に何が来るか分かっていても笑っちゃうんですよね。そして、ファンもその「お決まり」を望んでいる。
それと同じで、龍が如くシリーズにおいて、小さなきっかけから大きな闇に迫っていくというシナリオ展開になりがちなのは、決してライターがそれしか書けないわけではなくて、あくまでファンが望む「お決まり」だから、僕はそう理解しています。
本作『JUDGE EYES:死神の遺言』もシリーズこそ違えど、そのファンに愛されてきたシナリオ展開でした。
そうです、お察しの通り、大久保新平が起こしたと思われた二つの殺人事件、そこから全ては繋がっていて、その行きつく先は社会の巨悪だった。
本作のストーリーをウルトラざっくりまとめるとそうなります。
フィクションと言えど、殺人事件を「小さな事件」と表現するのは心苦しいですが、そう思えるほど黒幕のスケールが大きいということでご理解のほどお願いします。
"逆"どんでん返し
そして、もう一つストーリーについて大きな特徴があります!
「どんでん返し」がない。
これをマイナスポイントだと思うでしょうか。
確かに、映画みたいな映像作品だと「どんでん返し」が用意されていたほうが驚きがあって、一気に惹き込まれます。
しかし、龍が如くスタジオの作品だとどうでしょうか。
「どんでん返し」に慣れているファンの方が多いんじゃないでしょうか。あるいは、一種の罠ともとれるその手法に警戒して、裏の裏の裏くらいまでストーリーを読んでプレイする人。
かくいう僕もそうでした。「どうせ羽村は悪者じゃないんだろうな」「実はいい奴で、最初に味方と思えた人物が黒幕なんだろうな」って思いながらプレイしてました。
ところが、どうでしょう。
羽村は最初から最後まで一貫して悪者でした。
もうね、どんでん返しがないというどんでん返しにあった気分です。
言うなれば、逆どんでん返しにあったような気分。
怪しい奴は怪しい。そうだ、サスペンスの本質ってそこだったなって気付かされました。
このことが何を意味しているか。
プレイタイム20時間越えの重厚なストーリーながら、非常にわかりやすいんです。
龍が如くシリーズとの違い
今までのスタジオの作品って、
①Aが黒幕だ!
②ところが殴り合ってみるとAはいい奴だった!
③よく考えてみると実はBが黒幕だった!
④追い詰めたところBを陰で操っていたCがいた!
みたいな展開が多くて、本筋の間に起こるサブミッションをクリアしている間に展開を忘れたり、単純に人間関係が複雑すぎて混乱したりしていました。
ところが、『JUDGE EYES:死神の遺言』は
①羽村は悪者だ!
②なんで羽村がそんなことをしたか調べてやる!
③新たな事件が起きた!
④調べていく内に点と点で繋がっていく!
みたいな感じで、驚きに溢れる展開ではないものの、理解しやすい展開でありながら、③のように随所で動きがあるので退屈しない作りになっています。
なんというか、起承転結のリズムが気持ちいいのです。
魅力的なキャラクター
ストーリー以外にも、キャラクターが魅力的でした。
主人公が弁護士&探偵という、いわゆるカタギなので、他の登場人物もカタギが多いです。弁護士、検事、ハッカー、窃盗団、汚職警官、政治家、大家、探偵、ホームレスなどなど。
そこもヤクザ一色だった龍が如くシリーズと意図的に差別化されている点でしょうか。
そういえば、本作を語る上で外せない人物が一人います。
窃盗団の一人として登場する彼。
仮面の犯罪者を見ると、僕は『香港国際警察』の猟奇的犯罪集団を彷彿とするのですが、彼は八神サイドの人間です。一応は味方です。
しかし、彼には秘密があるようで――
まとめ
おっと、これ以上はネタバレが過ぎるおそれがありますね。
「感想」と記事タイトルを打った時点で、ネタバレありで書くつもり満々だったんですが、もし購入を迷っている人がこの記事に辿り着いたとき萎えてしまったら申し訳ないと思いやめました。
やっぱり、ストーリーが売りのゲームは初見で体験していただきたいと、書いている途中で考えを改めました。
もしかしたら、感想記事にもならず、ネタバレ考察記事にもならず、PR記事にもならない、中途半端な記事になってしまったかもしれません。
ただ、『JUDGE EYES:死神の遺言』が面白いことに変わりはないので、購入を迷っている方は是非購入してみてください!!