旅も自転車もド素人なのに四国一周した話(10)
前回まで
前回の記事
nikudarumasikakuhead.hatenablog.com
最初の記事
nikudarumasikakuhead.hatenablog.com
2019/01/03【愛媛編PART3】ある町にデトックスされた話
宇和島から次の目的地・八幡浜の間にある山はかなり厳しかったが、同時に憎めない道でもあった。
いや、道自体は勾配が徐々にきつくなっていくという嫌らしさがあるのだが、景色が綺麗すぎたのだ。
この日は日差しもキツく、汗だくになりながらヘロヘロと山道を上がっていくと、ぽつんとミカンの試食コーナーがあった。
最初から買う気がないのに試食するのは気が引けたが、売店の方に勧めてもらったので一ついただくことにした。
ホテルでジュースを飲んだときも思ったが、愛媛のミカンは甘いとか酸っぱいとか極端な味ではなく、甘さはもちろん酸っぱさも苦さも内包している、すごく豊かな味がした。
愛媛県歴史文化博物館
道中の卯之町というところには愛媛県歴史文化博物館があるというので立ち寄ることにした。
原始・古代から現代に至るまでの愛媛の歴史や文化を知ることができ、当時の暮らしを原寸大で再現した模型は人気がある。
相変わらず丘の上にあるようで、「いい加減にしてくれ。観光の度に何かしら登ってる気がするぞ」なんて思いながら頂上を目指した。
とにかく暑かったのを覚えている。
日差しが悪さをして写真もうまく取れなかったが、入口からオシャレだった。
原始・古代の暮らし。
中世頃の船はまだ人力。
幕末の松山城下町。
近世の暮らし。
そして、愛媛県の誕生。
歴史的文化的な価値はもちろんだが、美術的な価値も非常に高い展示ばかりだったので、写真が好きな方は行ってみるといいかもしれない。
ここから八幡浜へ向かうには、しばらく平地を走ったのち、また少し山を登って、そのあとはひたすら下り道というルートになる。
その道中でマンモスと二度目のSLに出会った。
内子町
そして、目的の八幡浜に着くと、僕はすぐさま電車に乗った。
内子町というところに行くためだった。電車に乗ったのは、後でまた八幡浜に戻ってくるからだ。
僕がどうしても内子に行きたかったのは、内子に現存する明治の町並みに惹かれたのはもちろんだが、この場所にある内子座に行きたかったからだ。
内子座
大正時代から100年以上も続く現存する芝居小屋の一つで、重要文化財にも指定されている。
公演外の期間は一般に公開され、中を見ることができる。
伝統ある芝居小屋と言えば、松の木。
板に描かれている場合は鏡板というのは知っているが、舞台幕に描かている場合は何というのかはわからない。
人力の回り舞台。
真下には棒が伸びていて、それを何人かの男衆で回したそう。
ちなみに、現在ここで公演する際も人力だそう。
一般に、この地下のことを奈落という。現在でこそ、人が歩けるように整備されているが、昔は地下水の水位が高く簡易的なものだったらしい。
水に濡れながら回していたのだろうか……。
客席。
昔は一つの枠に5、6人ほど詰めて座っていたそう。現在は多くて4人だとか。
全体絵。
中央階下の席以外は基本的にお金持ちが座るのだが、中でも上手席(右手側の席)は身分の高い方が座ったそう。
内子の町並み
内子座から20分ほど歩くと、町並み保存地区に突入する。
江戸~明治の建物が現存しており、タイムスリップしたような感覚を味わえる。
中には、当時の暮らしを再現した観光客向けの建物もあり、自由に入ることができる。
また、内子はロウソクが有名な町でもあり、時期が時期なら夜にロウソクのライトアップも見れるのだが、残念ながらこのときはシーズンではなかった。
いつも「タイムスリップしたかのような感覚」なんて売り文句の観光地に訪れると、実物はそうでもなくて「嘘くさい」と感じてしまうのだが、内子町は本当だった。
あるいは、時間が止まったかのような感覚に近いかもしれない。
内子という町から発せられる雰囲気がそう感じさせたのだと思う。
別に農村部というわけでもないのに、全体的にかなり静か。でも、人と人との交流も見られるので不思議と冷たいという印象はなく、ただ歩いているだけで心がデトックスされる町だった。
もし、移住するなら、こういう町に住みたいと切に思う。
スーパーホテル八幡浜
実はというと、正月三が日は少し贅沢をしようとホテルに泊まっていた。
料金は素泊まり6500円弱と、今までの宿と比べると一番高いのだが――それでもビジネスホテルとしては十分安い――、宿泊を決めたのは朝食バイキングと天然温泉が無料で付いてくるからだった。
朝食代と温泉代を差し引いても、旅の身分にしては贅沢な宿だったかもしれない。
でも、正月に泊めてもらえるだけ有難いし、何より朝にお腹いっぱい食べるということが久しぶりで嬉しく、非常に満足度の高いホテルだった。
2019/01/04【愛媛編PART4】夏目漱石ゆかりの地の話
この日は一気に松山市まで行くことに決めた。
八幡浜から松山までは基本的に海岸沿いを走っていくだけなのだが、海岸に行くまでに山を一つ越えなくてはならない。
ただトンネルが開通しているので、多少は上り坂になるものの、今までの経験と比べら随分楽な勾配だ。
最初に現れ、そして、この旅一番の長さを誇る隧道の名は瞽女トンネル。
全長は2キロ。最初の1キロ弱は軽い上り坂になっており、峠は入口からの明かりが届かない分、かなり暗くなっている。それが若干の怖さを伴っている。
ただ、歩道が広く整備されているので、安心して走ることができた。
冷やっとしたのは次だ。
瞽女トンネルを抜けると、すぐに500メートルほどのトンネルが始まる。
ここは歩道が整備されているものの、瞽女トンネルとは違い自転車一台分の幅しかない。その上、洞内は明かりが最小限しかなく、自転車のライトのみが光源だと言っても差し支えない。
瞽女トンネル後半から下り坂になっているため、そこそこのスピードが出る。
僕も歩道を進んでいたため、車との接触はないだろうと安心していた。
ところが、その矢先。何かに乗り上げ、バランスを崩した。
歩道は狭い。真横は車がバンバン通っていた。
もし転倒したら死ぬと思って、死ぬ気で体勢を立て直した。
3日目は精神的に「死」を感じたが、このときはもっと即時的な「死」を感じた。
何とかトンネルを抜けると、上がった心拍数を落ち着けるため、休憩を取った。
すると、またまたまた、一人のおじさんが話しかけてきた。
おじさんは僕がこれから行く方面を尋ね、「ずっと道なりで走りやすいけど、伊予の前にまた峠がある」と教えてくれた。
わざわざそのために声をかけてくれたのだ。ありがたい。
おじさんが教えてくれた通り、夕やけこやけラインと呼ばれる道路は大変走りやすかった。おそらく旅一番。
そのためか、サイクリングしている方と沢山すれ違った。そのたびにアイコンタクトで挨拶を交わす。
遅ればせながら、これがサイクリングの魅力なのかもしれないと気付いた。
快晴だったこともあり、横に広がる一面の海がまた最高だった。遠くの方にうっすらと見える山口(?)。
夕陽の町・双海
しばらくすると、道の駅ふたみに到着。
海水浴場が横手に広がっているので、かなりわかりやすい。
双海町は日本の夕陽百選に選ばれるほど夕陽が有名な町だそう。
そして、夕陽が最も美しく見えるスポットがこの道の駅だということだ。
たしかに、夕方に訪れてみたい場所だった。
この三体のモアイ像は、向かって右から夏至・春分/秋分・冬至の日没の方向を向いているらしい。面白い。
ちなみに、恋人の聖地としても有名。
もう四国で何度「恋人の聖地」という文字を見たことだろうか。
クリスマスは過ぎていたため、たぶんノーダメージ。
ここから松山駅までは25キロ弱しかない。
しっかり休憩を取ったあとは一気に市内を目指した。
先ほどのおじさんが言っていた、伊予の前の峠は確かに体力の削られる勾配だったが、幸い短かったので気合で乗り越えた。
ネストホテル松山
松山市に到着すると、まだ夕暮れ時だったが、僕は予約していたネストホテル松山に向かった。
チェックインを済ませると、すぐに荷物と自転車を預け、再びホテルを後にした。
スポーツバイク専用のスタンドをロビーに置いてくれるので、いつぞやのように悪戯される心配もない。
放生園(坊っちゃんカラクリ時計)
自転車を預けたのは完全に気まぐれだった。
松山の様子を見ていると、じっくり歩いて散策したくなったのだ。
ただぶらぶらするだけではなく、一応の目的地は考えていた。
道後にある放生園だ。
道後温泉駅の目の前にあり、道後の入口ともいえるスポットだ。
道後温泉から供給される足場が楽しめることで有名。
このときの目的はあくまで放生園であって、道後温泉ではなかった。
この日はホテルのシャワーを使えばよかったし、松山の名所は翌日まとめて観光する予定だったので、このときはスルーしたのだ。
こうして二度手間とも思える動きをしたのは、道後の夜を見ておきたかったから。
放生園の夜はガス灯にライトアップされるのだが、もう一つの名物・坊ちゃんカラクリ時計もまたライトアップされるというので見ておきたかったのだ。
一時間に一度、カラクリが動き出し、松山が舞台となった夏目漱石の『坊っちゃん』に登場する人物たちが中から姿を現す。
僕のように写真を撮る観光客は大勢いて、彼らを避けながらの撮影だったので変な角度から撮っているのは申し訳ない。
そして、放生園の様子。
なかなか雰囲気があった。
足湯はあまりに人で溢れかえっていたので撮れなかったが、浴衣を着た人達が利用していた。
どうやら近くの道後グランドホテル等で浴衣のレンタルも行っているらしい。
まだまだ寒いのによくやるものだ。
(続く)