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旅も自転車もド素人なのに四国一周した話(6)

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2018/12/26【高知編PART2】雨の日見た、もののけ姫の世界の話

 朝から雨だった。

 今までも雨の中を走るということはあったが、この日は本格的な雨だった。

 晴れであっても路側帯の凹凸に冷やりとすることはある。

 だから、雨で滑りやすくなっている中を走ることには不安もあった。

 ただ、最初の一週間をゆっくりし過ぎたという反省もあって、進めるだけ進もうと決めた。

 

 頭にタオルを巻いてからヘルメットを被り、レーンコートを着用。

 ひと漕ぎ目から、ちょっとしたトラブルが発生した。

  前輪のチェーンリングにふくらはぎ部分のレーンコートが引っかかりビリビリと破けてしまったのだ。

 

 日常だと他愛もない出来事に思えることでも、旅の途中だと結構なストレスだ。

 それ以外のレーンコートなど持っていなかったので、取り急ぎ膝の上まで捲り上げて対処した。

 傍から見れば雨の中、雨具の裾を捲っている奇抜な格好に見えたことだろうが、背に腹は代えられない。

 

 ヘルメットにも雨よけを付けていたが、それでも隙間からじわじわと水滴が滴ってくる。

 必死に目に水が入らない角度を探したり、すぐ横を走る車に水溜まりの水を掛けられないよう注意したり、いろいろなことに気を配っていたため、サイクリングを楽しむという心持ちではなかった。

 

 でも、良い景色の前にすると自然と休憩を取っていた。 

 

羽根岬

 羽根岬はとりわけ有名な観光スポットではないようだが、雨の中どっしりと構える赤い鳥居は雰囲気があったのを覚えている。

 

 それにしても、岬というのはどうしてこんなにも大きな岩がごろごろとしているのだろうか。

 答えがほしいほどの謎ではないが、徳島~高知間を移動する中ですっかり岬=大きな岩がゴロゴロという方程式が出来上がってしまった。 

 そして、写真では伝わりにくいが、実際に見ると大きな岩というのは圧巻である。

 

珈琲館 高田屋 蔵資料館

 室戸市安芸市の間にある奈半利町に着くと、僕は冷え切った体に暖を取るべく喫茶店を探していた。

 そんな折、見つけたのが珈琲館 高田屋 蔵資料館。

 いわゆる古民家カフェだ。

tabelog.com

 

 からからからと引き戸を引くと、奥の方からテレビの音と「いらっしゃい」というご主人の声が聞こえてきた。

 ご主人は僕を見るなり、すぐにストーブの電源を点けてくれた。

 

 抹茶をいただいた後は、明治時代の文化財が多数保管された蔵を見せていただいた。

 忙しくないときには、ご主人が丁寧に説明してくれる。

 主に当時使用されていた食器類や紙幣・硬貨などを見ることができる。

 

 話を伺うと、ご主人のおじいさんは夏目漱石の英語の授業を受けていらしたとかで、ご主人自身も夏目漱石について造詣がかなり深い。

 当時の学び、特に五高時代について教えていただいた。

 喫茶代のみでこうした話が聞けるので、かなりおすすめのお店だ。

 

報恩寺跨線橋

 ところで、僕が奈半利で小休止を挟んだのにはある理由があった。

 奈半利は明治の町並みが多く残されている。

 もちろん、それを楽しむことも目的の一つだったが、それ以外にも歴史を感じさせるものはある。

 報恩寺跨線橋

 かつて、ここを森林鉄道が走っていたらしいのだ。

 跨ぐように掛けられた橋の塀は、時代を感じさせるデザインになっている。

 

 あまり有名なスポットではないらしいが、僕はこの橋の存在を知ったときから必ず自分の目で見ると決めていた。

 鉄道は道路へ姿を変えてしまったけれど、跨線橋はそのままの姿を残している。

 今と昔がちぐはぐになった様子が顕著に表れているように感じられて、すごく魅力的に思えたのだ。

 

 奈半利といえば「モネの庭」だろうというツッコミがあるかもしれないが、このときは既に年末休暇に入られていて訪れることができなかった。 

www.kjmonet.jp

 

伊尾木洞 

 それからまた雨の中を走った。

 次に立ち寄ったのは伊尾木洞だ。

 海食洞の一つで、洞内は川が流れているのが特徴だ。

www.akikanko.or.jp

 

  観光情報によると、数万年前にタイムスリップしたかのような感覚を得られるとのことだった。

 入口は公民館の横にあり、駐車・駐輪等はここを利用していいことになっている。

 なお、洞穴内はぬかるんでいるため長靴が推奨なのだが、公民館で無料で借りることができる。

 

 公民館の横道を100mほど歩くと、入口が見えてきた。

 そして、そこを抜けた先は確かに数万年前の光景だった。

 伊尾木洞のレビューにもののけ姫の世界」と評しているものを見たが、言い得て妙だと思う。

 

 山肌に天然記念物のシダが生い茂っている光景は、静謐であり神秘的だ。

 もちろん、先へ進むこともできる。

 全長は300メートルほどあり、ゴールには滝があるとのことだった。

 ただし、足元はかなり悪い。

 最初の100メートルほどはそうでもないのだが、後半になると、道とは言えないようなわずなな幅を進んでいかなければならない。

 僕としても例の如く10キロ以上あるリュックサックを背負っており、そこに長靴の機動性の悪さが重なるという状況だったので、かなり慎重に進んだことを覚えている。

 

 そして、辿り着いたのがここ。

 

 伊尾木洞を出ると、その日の宿へと向かった。

 この辺りから一本のサイクリングロードが高知市へと伸びていて、かなり走りやすくなった。

 

芸西村の家

 そして着いたのが、芸西村の家。

 公園や陸上競技場、テニスコートに柔剣道場といった施設と同じ敷地内にあり、近所の方や学生で賑わっている。

 ただ、閑静な場所にあるので、そういったことがマイナスになるわけでもなく、広々した部屋で羽を伸ばすことができた。

 大浴場が備えられているのもポイント。

 一日雨に打たれ続け疲労した身体を温めることができて良かった。

muranoie.com

 

 

2018/12/27【高知編PART3】ココイチの2辛は宇宙一辛いと思った話

 高知入りしてから急ぎ足になっているのには理由があった。

 いつだったか、宿で何気なく点けたテレビから12/28は全国各地で大寒波に襲われるというニュースが流れたことだった。

 それが、まだ徳島にいるときこと。

  

 雪が降ると言われていたし、そうなると路面凍結で思うように進めなくなることだってあり得る。

 それ以外にも、思いもよらないトラブルが起こるかもしれない。

 

 増してや年末のこの時期なのだ。

 「モネの庭」のように、既に休暇に入り始めているお店も少なくなかった。

 そうなると、いざというとき頼れるところがないという状況に陥る可能性もある。

 

 淡々と書いているが、当時は年末年始という空気が漂う世間の横を旅行する自分が浮いているように感じられ、とても情けなく恥ずかしく心細かった。

 

 だから、リスクヘッジの観点以上に僕の精神衛生上、年末年始関係なく動き続ける街まで行く必要があった。

 それが僕を高知市まで急がせた理由だ。

 

高知安芸自転車道 

 安芸市から高知市まで伸びるサイクリングロードは、実におあつらえ向きだった。

 キラキラ輝く海を横目に走っていると、多少は寂しさを忘れることができた。

 

ヤシの町・夜須 

 高知市の隣、香南市にはヤシの木で有名な夜須町があった。

 実はヤシの木を生で見るのは初めてで、かなり興奮した。

 しかし、こうして振り返ると、四国一周は初めての連続だ。

 

第28番札所・大日寺

  旅を終えた今でも寺院のことは詳しくなれずにいるのだが、どうやら大日寺という名前の寺は多く存在するらしい。

 徳島にも二箇所ほど同名の寺があったが、高知にも大日寺がある。

 

 こちらの奥の院を流れる御加持水は高知の名水40選にも選ばれた脇き水として有名だ。

 

龍河洞

 そして、大日寺に隣接する県道を4、5キロほど山の方へ北上するとアクセスできるのが龍河洞だ。

  景色は綺麗だが、そこそこの勾配の坂を延々上っていかなくてはならない。

 

 これまでの数えきれないほどの山や坂たちに鍛えられ自信もあったので、なけなしの根性で上り切ったが、素直に押していれば良かったと若干の後悔。

 

 上り坂の終わりを知らせるのは龍河洞トンネル。

 全長が1キロ弱あるが、自転車が二台すれ違えるほどの歩道が整備されており、安心して通過できる。

 

 トンネルを過ぎると、坂という印象から山という印象に変わった。

 龍河洞までの残る数キロはアップダウンの激しい山道だ。

 大変なのは大変だったが、香川~徳島間の山々に比べれば大した事はなかった。

 

 龍河洞の前には観光客向けの店が並び、商店街になっている。

 そこを抜けると歴史を感じる鳥居と石段(横にはエスカレーター)。

 

 受付を済ますと、すぐに別世界に包まれた。

 伊尾木洞がシダの世界なら、龍河洞は石灰岩の世界だ。

 

 自然のまま何万年もかけて出来上がった鍾乳洞は広くなったり細くなったり。

 

 中には、人一人通るのがやっとの場所も。

 

 もちろん、そういうアトラクション的な要素が楽しいばかりではない。

 写真は洞穴内で一番天井が高い場所で30メートルもあるそう。

 

 こちらは一番大きな滝で11メートル上から流れる水によって穿たれて出来たそう。

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 こちらは15万年以上の歳月をかけて出来上がった11メートルある自然のカーテン。

 

 しばらく歩き進めると、弥生時代の人々が穴居に使っていたという開けた空間に辿り着く。

 

 そこに面白いものがあった。

 神の壺。

 弥生時代の人々が実際に使った壺が長い長い年月を経る中で、鍾乳石と一体化してしまったというのだから驚き。

 

 写真で見る分には、「薄暗い、怖い」という印象を抱いたかもしれない。

 しかし、随所でオシャレなライトアップがされており、洞穴特有のそういった排他的なイメージはかなり薄い。

 それどころか、全長1キロもある洞穴内で不快に思ったことは何一つなかった。

ryugadou.or.jp

 

土佐神社

 龍河洞を楽しんだ後は来た山道や坂道をひた戻り、高知市街に行く過程でいくつかの寺院を回った。

 

 写真の土佐神社では、年末年始の行事ごとの関係者や参加者と思われる人達の出入りが多数あった。

 もしかしたら、この辺りのメジャーな初詣先なのかもしれない。

 

 ふと旅をしていなかったら、どういう年末年始を過ごしただろうかということを考えてしまい、またしても卑屈な気分になった。

 

 たぶん、旅をしていなくても親戚一同一家団欒というような幸せな過ごし方はしていなかっただろう。つまり、結果としては何も変わらないはずだった。

 それでも、今まで騙し騙し見て見ぬふりしてきた孤独感が現実のものとして突きつけられたようで寂しかった。

 

 そんな気分だったから、この日の夜はおよそ自棄だった。

 普段は行かないココイチに行って2辛を注文した。

 宇宙一辛いと思った。後悔した。

 

 駐輪場のないネカフェに滞在するため、わざわざ駅に自転車を止め、数十キロある荷物を抱えながらフラフラ歩いていると、何度も飲みの帰りの人とすれ違った。

 「来年もまたよろしくお願いします」なんて言葉が聞こえてくるたび責められているような気がして、荷物の紐が手に食い込む痛みを我慢しながら、休むことなくネカフェを目指した。

 

(続く)