旅も自転車もド素人なのに四国一周した話(12 終)
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- 2019/01/07【愛媛編PART7】大変だったけど、振り返ると移動しかしてなかった日の話
- 2019/01/08【二度目の香川編PART1】ロマン溢れる、日本最古の芝居小屋の話
- 2019/01/09【二度目の香川編PART2】四国一周、最終日の話
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2019/01/07【愛媛編PART7】大変だったけど、振り返ると移動しかしてなかった日の話
この辺りから、自転車を漕ぐのが徐々にしんどくなってきていた。
最初は連日の疲労が溜まっているものだと勘違いしていた。
ところが、今治から20キロほど南にある西条市の産業道路に差し掛かったとき、そのしんどさは明らかに車体が原因であることに気が付いた。
後輪が1回転するたびにブレーキが掛かるような感覚がしたのだ。
急いで自転車を降りて確認すると、リムの一部が大きく歪んでいた。
それがフレームに擦っていたのだ。
おそらく最初に「漕ぎにくさ」を感じたときから歪み始めていたのだと思う。
思い当たる節はあった。
車の交通量が多い道路を走るときは、可能な限り歩道(もちろん自転車通行可の場所のみ)を走るようにしていた。
それは僕なりの自動車への配慮であり、僕自身が荷物を積んだ自転車で車の真横を走ることに抵抗があったからだ。
ただ、愛媛入りしてから歩道が高くなり、乗り上げるたび後輪の荷物が跳ねて大きな衝撃を感じるようになった。
愛媛が悪いというよりは、それまで山道や海岸沿いを走ることが多くて気付かなかっただけで、歩道を自転車で走るというのはそういうことなのかもしれない。
つまり、連日の疲労が溜まっていたのは自転車のほうだったのだ。
よく見ると、スポークが2本も折れていた。
スポークは1本折れると、衝撃をうまく分散できなくなり次々折れ始めるという。
その結果、リムが歪むのだ。
本来折れたスポークは車輪に引っかかっているはずなのだが、なぜかどちらも残っていなかった。
そのため1本目どころか2本目がいつ折れたのかさえわからない。
ただ、そんな初心者でも、これ以上乗っていると3本目もすぐ折れるということはわかった。
四国の良いところは、市街なら基本的に自転車屋があることだ。
とは言っても、一番近いところで5キロほどの道のりがあった。
その上、先ほど書いたように異変に気付いたとき移動していたのは産業道路だった。
歩道なんて当然のようにないし路側帯があると言っても気持ち程度。真横を走る大型トラックに怯えながら、自転車を押すのはひどく惨めだった。
それにしても、自動車の横を走ることを避け続けた結果、自動車の横を歩く羽目になるなんて皮肉が効きすぎだろう。
WINDS BIKES
僕が逃げ込むように修理を依頼したのは、ウイングバイクスさん。
愛媛県西条市にある、ご夫婦で営まれているスポーツバイク専門店で、快く修理を引き受けていただいた。
ものの20分ほどで完了。修理代はスポーク2本交換+リム矯正でたったの2000円。
手際の良さから本当に自転車がお好きなこと、価格設定から自転車好きを増やしたいという心意気がそれぞれ伝わってきた。
ご主人に自転車を診ていただいた後は、信じられないくらい漕ぎやすくなった。
もしかしたら、かなり前からリムが歪んでいたのかもしれない。
改めて自転車の楽しさを知り、この日は時間の許すまで前進した。
伊予三島の某ホテル
ここからは伊予三島にある某ホテルの悪口が始まるので、苦手な人はスルー推奨。
まず入口に「アルバイト募集!」と大きな広告を貼っていたところから、若干の違和感を覚えた。
駐輪場がなかったので、フロントに自転車をどこに停めたらいいか尋ね、言われた場所に自転車を運んでみると、真横にゴミ置き場が。
この時点で「あれ?」となった。
フロントに戻ると、若い男性がタメ口交じりのたどたどしい口調で接客してくれた。
と言っても、高級ホテルではないので、そこまでは我慢すべきだ。
明らかに問題だと思ったのは、部屋に入ってから。
手を洗おうとユニットバスの扉を開くと、既に洗面台が水浸しだったのだ。
水漏れなどのトラブルではない。ただ、蛇口の締めが緩かっただけ。
そのときに確信した、テキトーなホテルだと。
それ以外も気になるところは多々あった。
何故かコンセントが埋め尽くされていた上に、タコ足配線にタコ足配線を重ねるという危険な結線がされていたこと。
暗いと感じるレベルまで抑えられた照明。
朝食付きプランなのに、ドリンクの機械が故障していて飲めなかったこと。
などなど。
書き出したらキリがないので、この辺で。お目汚し失礼。
2019/01/08【二度目の香川編PART1】ロマン溢れる、日本最古の芝居小屋の話
この日は丸亀市まで行くことになっていた。
そう、ついに香川入りだ。
銭形砂絵
香川入りして、最初に立ち寄ったのは銭形砂絵。
琴弾公園の横にある地上絵のようなもの。
「寛永通宝」と描かれている。観音寺市一番の観光スポットで、聞くところによると一晩で造られたものらしい。
雨風によって形が崩れた際は、地元ボランティアによって修復されるとのこと。
写真は、正面にある象ヶ鼻岩銭形展望台から撮影。
第68番札所・神恵院、第69番札所・観音寺
象ヶ鼻岩銭形展望台のすぐ近くに、この二件の寺院は存在する。
正確には、同一境内の中にあるのだ。
ちなみに、観音寺は『結城友奈は勇者である』通称・ゆゆゆというアニメの聖地(?)らしい。
銭形砂絵の横にあるお土産屋さんでは、こんな光景が見られた。
それから丸亀に着くまでのことは正直よく覚えていない。
途中で山を一つ越えたような気もするが、覚えていないということは大した山ではなかったのだと思う。
ただ、旅のゴールが近付いて気持ちが早っていたのは確かだ。
旧金毘羅大芝居「金丸座」
丸亀に着いたのが15時頃。僕は急いで電車に乗り琴平駅へ向かった。
電車に乗った理由は今までと同じだ。
琴平へ行ったのは、こんぴら山が目的ではなかった。
もう少し早く着いて時間があれば、そちらも観光したかもしれないが。
琴平の観光スポットのうち、僕の中で最も優先度が高かったのは旧金毘羅大芝居だ。
内子座と同じように重要文化財に指定されている芝居小屋の一つで、天保の時代に建てられた現存する最古の芝居小屋なのだそう。
こちらもまだまだ現役で公演を行っている。
そして、公演外の期間は一般に公開されているのだ。
ちなみに、こちらが内子座について書いた記事。
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どちらも歌舞伎を行う小屋なので、全体的な造りは似ている。
ただ、内子座では記事で使えるような写真をあまり撮れなかったので、今回は入念に調べてきた。
希望すれば案内を聞くことができるのだが、入口から早速オモシロい話を聞くことができた。
というのも、入口は三つあるのだが、それぞれ身分によって入口がわかれていたというのだ。
ただし、端の二つは同じ造りで、設置位置で上下関係を表している。
三つの入口のうち大きく違うのは真ん中の扉。こちらは庶民の入口だったという。
身分の高い客が使う上手(右手)の扉とお金持ちの客が使う下手(左手)の扉より、わざと低く造られているのだ。
今でいう下駄箱。
時代がもう少し進むと、箱で管理するようになり「下駄箱」と呼ばれるようになるのだ。
内子座より少し派手な雰囲気。
舞台裏には「奈落」に続く階段がある。ようは舞台の地下だ。
旧金毘羅大芝居にも回り舞台の仕組みはある。
というか、歴史的には内子座より先輩になる。
回転板に繋がる棒を人力で回すシステムは一緒だが、こちらの回転板と床板の間に噛ませて回転させやすくする「回転ゴマ」と呼ばれる技術は機械遺産に認定されている。
最後に二階席からのアングル。
歌舞伎に興味のない方でも、歴史や技術のロマンを感じられる場所なので、ぜひ足を運んでほしい。
2019/01/09【二度目の香川編PART2】四国一周、最終日の話
丸亀から高松までは30キロもない。
自転車で1時間半も漕げば到着する距離だ。
そして、高松というのは、この四国一周旅行のゴールでもあった。
僕は前日の夜、ネカフェに滞在しているときから、この日を旅の最終日にする気で満々だった。
高松にも観光スポットは沢山あるが、観光したいところは一箇所しかなかった。
その一箇所だけなら、この日中に神戸に帰ることが可能だった。
たぶん気が早っていたのだと思う。
もちろん自転車に乗っているときは安全運転を心掛けたが、丸亀に着いた辺りから「早くゴールしたい」とそればかり考えていた。
高松に着いたのは朝9時のことだ。
これで一応は四国を一周したということになる。
だが、不思議と達成感というのは無かった。
たぶん、一度でも輪行に頼ったという背徳感と、後半になるにつれておざなりになった四国遍路への罪悪感からだ。
ゴール時の総走行距離は約970キロ。
もしも、輪行せず四国を一周したら1200キロほどになっていた計算だ。
そう考えると、結構がっつり輪行していたことになる。「……勿体ないことをしたような、でも仕方なかったような」そんな複雑な気持ちになったのを覚えている。
ちなみに、輪行したときの話は下の記事に書いてある。
nikudarumasikakuhead.hatenablog.com
男木島
高松に到着すると、すぐに港に向かった。
神戸に戻るためではない。先ほど書いた観光地に行くためだ。
高松港からフェリーに乗ること40分。着いたのは男木島だ。
猫島として有名で、瀬戸内国際芸術祭の開催地の一つにもなっている。
港から目に入る芸術祭の作品。
八つの言語が表現されている屋根は建物全体を芸術作品として仕上げている。
中では、フェリーのチケット等が販売されていた。
観光窓口もここのようだ。
さすが猫島。早速、歓迎を受けた。かなり人懐っこい。
この猫たちとは後でまた再会することになる。
島を探索しようと、とりあえず入口のような雰囲気を放っている鳥居まで来た。
ゆるやかな坂になっており、振り返るとこんな景色が。
地元の方とは全くすれ違わなかったが、猫とは何回かすれ違った。
中には警戒心の強い猫もいたが、この猫はすたすたと真横を通り過ぎていった。
男木島は島全体が芸術祭の舞台になっているので、至るところで作品を見ることができる。
以下3枚の写真は壁画プロジェクトの作品だ。
市の観光ホームページを見ればわかるが、壁画以外にも作品はたくさんある。
しかし、建物の中に製作された作品が多く、僕が訪れたときは残念ながら冬季休業中とのことで見ることができなかった。
とはいえ、僕はそのことをホームページで確認し承知の上で訪れていた。
猫が多いことも芸術作品を見られることも大きな魅力だが、なにより島の雰囲気に惹かれたのだ。
生活と斜面が共存している光景は美しい。
そこに見渡す限りの青い海や可愛い猫、芸術作品たちがアクセントを加えているのだ。
僕は、あくまで男木島の魅力は男木島そのものだと感じた。
港に帰ってくると、つがい(?)の猫が。
片方は出迎えてくれた猫だった。
猫というのは本当にわからない。
出迎えてくれたほうの猫が、もう一匹がエサを食べているところを邪魔し喧嘩が始まった。(エサは地元の方が与えているもの)
僕は巻き込まれまいと、離れたところから観察していたのだが、喧嘩が一段落つくと吹っ掛けたほうの猫がこちらに歩いてきた。
そして、僕の前で背中を向け、
「ついてこい」と言わんばかりに、また歩き始めた。
案内されたのは何故か男子トイレ。
おもむろに水を飲み始める猫。
実は、トイレの前にも猫用の水入れが置いてあった。この猫もそれは知っている様子だった。
僕はあえてトイレの水を飲むところを見せてくれたのだと、都合よく解釈することにした。
なぜか出迎えてくれたとき一緒にいた猫までトイレに入ってきた。
すると、談合が始まり、2~3分トイレから出られなかった。
2匹はとても仲良しのようで、互いにグルーミングしあったりしていた。
こうしてカメラを向けても嫌がるどころか、時折すり寄ってきたりしてくれた。
本当のことを言えば、ネットに転がっている男木島の写真のように沢山の猫と出会ったわけではなかった。せいぜい5匹くらい。
それは冬だったせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ただ、この猫たちのような接客のプロと出会える場所は他には少ないと思う。
実際、僕は骨抜きにされてしまった。
高松からフェリー1本で訪れることができるので、癒されたい方は訪れるといいかもしれない。
閑話休題。
それからはネカフェで適当に時間を潰した。
フェリーは18時の便と24時の便を選べたが、どちらにせよ朝の電車に乗って地元まで帰る予定だったので、後者を選び、寝ている間に運んでもらうことにした。
5時間の船旅を経て神戸に着くと、輪行の準備を始めた。
あくまで旅の目的は四国一周だったので、今度は背徳感も罪悪感もなかった。
少し手馴れて、30分もかからずに輪行の準備が整った。
それから最寄り駅までは一瞬だった。
電車に乗れば、数十キロなんて距離も容易く移動できてしまう。
だとしたら、わざわざ自転車に乗って約1000キロも移動した意味はあったのだろうか。
電車や自動車なら一日二日あれば移動できる距離だ。
一瞬、そんなことが頭をよぎった。
でも、今なら断言できる。意味はあったと言い切れる。
自転車だからこそ感じたこと、知れたこと、見えたものが沢山あった。
ただし、それらの経験をどう活かすかは旅をした本人次第だ。
更に言えば、経験なんて曖昧なものは形にしなければ風化していく一方だろう。
だから、手始めに今回のことをブログに記した。
ところで、僕は最初の記事で「百聞は一見如かず」という言葉を使った。
ブログの趣旨と反しているようだが、これは的を射ていて、四国の良さ・自転車旅行の魅力なんて実際に体験してみないと分からないものだ。
ネットで観光地について調べたとき抱いたイメージと実際に訪れたときの印象が全く違うなんて、数えきれないほどあった。
それに、ブログやネットが伝える情報は、どうしても書いた人の過去の経験に偏ってしまう。
風化にさらされていない鮮度の高い経験を知ることはネットでは不可能だ。
そういう、その場その時でしかできない世界のただ一つの経験を求めるのならば、今すぐ旅に出るべきだ。
あわよくば、四国に行って、その魅力に触れてほしい。
(終)